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東京地方裁判所 昭和43年(借チ)1017号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕三、本件においては、借地権の存否に争いがあるので、まずこの点について検討する。

申立人は、昭和二一年七月二三日頃相手方らの先代榊原正一から本件土地を建物所有の目的で期間を定めず賃借した旨主張するけれども、その間の事実関係は次のとおりであつて、右のような賃貸借契約が成立したとは認め難い。

1 すなわち、本件で調べた資料によると、相手方らの先代亡榊原正一は本件土地を含む別紙(一)の土地を所有し、昭和二〇年中右地上に存した建物の一部を申立人に賃貸したが、右建物は同年五月戦災で焼失し、申立人はその焼跡に建物を建築した。

2 終戦後疎開先から帰来しこれを知つた榊原正一は、従前どおり建物を建てるつもりであつたので、いずれは申立人に立退いて貰いたいと考えていたが、直ちに土地の明渡を求めることはせず申立人から若干の謝礼を受取つたこともあつた。しかし、申立人に対し土地を賃貸する意思はなく、申立人から、正式に賃料を決めて土地を貸して貰いたいとの申入れがあつたけれども、これに応じなかつた(なお、別紙(一)の地上には二棟の建物があり、これに四名の借家人がいたが、正一は右のうち特殊な事情のあつた一名にのみ焼跡の一部を賃貸し、他の二名は正一の求めにより立退き、申立人のみがそのままとなつた)。

3 かような状態のまま、榊原正一は昭和二七年中死亡し、相手方両名が相続によつて右土地の所有権を取得したが、相手方らは、父正一から、右土地は申立人に賃貸したものでないと聞いていたので、賃料を受領することなく、その間申立人に何回か立退を求め、立退先を提供して交渉をしたこともあつたが、申立人において、これに応ぜず現在に至つた。

4 一方申立人は、昭和三五年一〇月頃になつて、一カ月五〇円の割合の賃料を相手方正三に提供し、その受領を拒まれたため、同月一〇日に同年八月及び九月分の賃料として計一〇〇円を弁済のため供託した上、翌三六年になつて相手方両名に対し本件土地の賃貸を求める旨の調停の申立(新宿簡易裁判所昭和三六年(ユ)第七八号事件)をしたが、相手方らはこれに応ぜず、裁判所の勧告によつて申立を取下げた。その後申立人は昭和四三年三月になつて、再び前同様二カ月分の賃料計一〇〇円を供託の上、本申立に及んだ。

以上の経過が認られ、これによると、亡榊原正一において本件土地の明渡を強いて求めず、申立人から若干の金銭を受領した事実はあるけれども、申立人本人の陳述によつても申立人において榊原正一に対し、賃料を決めて正式に賃貸して貰いたい旨申入れたに拘らずこれを拒絶されそのままになつたというのであつて、前判示の経過とも合わせ考えると、申立人主張の契約が成立したとは認め難いといわねばならない。

四、もつとも、前判示の事実関係によると、申立人は、ほぼその主張の土地にあたると思われる部分(その位置、面積は必ずしも明確でないが)につき、罹災都市借地借家臨時処理法第二条に基づく賃貸借を有すると見る余地がないわけではない。

すなわち、本件の資料によれば、前述の罹災当時別紙(一)の土地に存した榊原正一所有の二棟の建物(各二戸建)には四名の借家人があり、申立人も右建物のうち建坪約六坪ないし七坪の部分を賃借していたと認められ、かつ法定の期間内にその敷地について土地所有者正一に対し建物所有の目的で賃借の申出をしたと認める余地があるわけである。

ただ、右の事実に基づき申立人の賃借権が肯定される場合においても、申立人が権利を有すべき土地の範囲は必ずしも明確でなく、また賃貸借の条件についても当事者間の協議は容易に調わないと考えられるので、これを確定する手続を必要とするであろうが、かようにしてもし申立人の賃借権が確定された場合、それは期間の点を除き一般の借地権と異るところはなく借地法の適用を受けるものである。そしてこの場合、格別の定めのなされない限り、契約上増改築は制限されない筈であるから申立人において地上建物の増改築につき相手方らの承認を得る必要はなく、従つてその承諾に代わる許可に関する借地法第八条の二第二項の規定の本来予定しない場合であると解され、むしろ本件のような全面改築については専ら同法第七条により処理されるのが相当と考えられる。

五、以上要するに、申立人主張の賃貸借契約が成立したと認めるのは困難であるから、本件申立は右の契約に基づく借地権を前提とする限り、却下を免れないし、また、仮にこれと別に、前述のように罹災都市借地借家臨時処理法による借地権を肯定できるとしても、前段に述べた理由により少なくとも現段階において申立人の申立を容れるのは相当でないといわねばならない。別紙略(安岡満彦)

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